患者との会話から電子カルテを自動作成する 生成AI:Nabla Copilot
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医者の書類入力業務を最大40%も削減する生成AIサービス、Nabla Copilotを徹底解説!
医療業界やヘルスケア業界における生成AIの活用は、注目されている領域の1つです。
しかし、患者データの取り扱いは個人情報保護の面から、AIの使用に関する問題点をしばしば提起します。(下記の記事は、AIを医療分野で使用する際の注意点を、弁護士が解説しているものです。)
医療×AI(Medtech)で注意すべき3つの法律を弁護士が解説
今回は、患者との会話からEHR(電子健康記録)への記録を自動化するNabla Copilotを紹介します。
また、生成AIの医療分野での活用において、Nabla Copilotが患者の疾患経歴などの要配慮個人情報をどのように扱っているかについても、詳しく解説します。
(EHRに関する説明はこちら)
Nablaの概要
Nablaはフランス・パリに拠点を置く、勢いのあるスタートアップです。同社は2024年1月初旬、シリーズBで2400万ドル(約35億円)を調達しました。
Nabla Copilotは、患者との会話をテキスト化し、診断から得た患者の経歴、症状、処方薬、検査内容などを、自動で構造化されたメモにしてくれるサービスです。
このサービスにより、精神科医や救急医は書類記入にかかる時間を最大40%削減でき、患者とのカウンセリングや診断に集中できます。
使える機能は契約プランにもよりますが、生成されたメモをEHRに自動転記して臨床ノートを作成したり、医者の指示にあたる部分を抽出してまとめ、患者に送ったりすることができます。また、患者の特定の症状に基づき、ICD-10という医療コードを自動で割り当てる機能もあります。(ICD-10に関する説明はこちら)
会話の録音機能については、CopilotをWebアプリやGoogle Chromeの拡張機能として提供することで可能にしています。Webアプリ上で会話を録音することも可能ですし、Zoomのようなオンラインコミュニケーションツールと連携して音声情報を取得することもできます。
録音された会話をメモにする際に、聞き取ったテキスト情報を構造化することが必要になりますが、この部分についてNablaは、独自の大規模言語モデルとGPTシリーズを組み合わせることで医者にとって見やすいメモに直すことを実現しています。
また、価格に関しては、月30件までの診察は無料です。それを超えると、個人医師や小規模医療機関は月120ドル(約18,000円)、エンタープライズはカスタムプランになります。
これまでにも電子カルテの自動作成を行うツールは存在していましたが、Nablaは独自の大規模言語モデルの開発により、専門用語を精度高く認識することが可能になりました。また価格に関しても生成AIを活用することによって、従来のAIツールと比較してコストを抑えた形でのサービス提供に成功しています。
Nabla Copilotはサービスの開始からわずか10ヶ月で、20,000を超えるプロバイダーに利用されています。
Nabla Copilotの個人情報の取り扱いとGDPR
Nabla Copilotは、患者の症状というセンシティブな個人情報を、AIが扱うサービスです。
このような物議を醸しやすいテーマにおいて、Nablaは完全な透明性を担保するために、メモの作成や書類への記入が完了した後の録音データ・テキストデータについては、一切が破棄されるようになっています。
さらに、大規模言語モデルが個人情報を扱うタスクについては、個人情報に当たる部分は情報がマスクされた状態で大規模言語モデルに渡され、情報を転記し終わりメモの生成が完了したタイミングで、マスクが解除されます。
医師と患者の明示的な同意がない限りは、要約されたメモを保存することもできないようになっています。
また、NablaはGDPRという、EUが設けた厳格なプライバシー規則があるパリで設立されています。
(GDPRについてはこちら)
GDPRへの準拠が認められたサービスであることを保証することで、EUに所属していない国の医師や医療機関に対して、信頼性の高いサービスである、と認識させることに成功しています。
APIの提供による他システムとの統合
Nabla Copilotは、音声認識や書類転記の機能をAPIとして提供することで、他のシステムと容易に統合できるようにしています。(そのサービス上だけでなく、APIというものを使用することでデータのみを取得し、他のシステムに利用することができます。)
以前紹介した、「物流業界のフォワーダー向け生成AI Copilot:fr8Labs」や「物流の監査業務を自動化するAIソフトウェア:Solvento」なども同様にAPIを提供しています。業界問わず海外の生成AIスタートアップは、自社のクラウド製品やSaaSを有料で販売するだけでなく、APIとして機能を提供することで、マーケットにいち早く広めようとする傾向にあるのかもしれません。
「物流業界のフォワーダー向け生成AI Copilot:fr8Labs」はこちら
「物流の監査業務を自動化するAIソフトウェア:Solvento」はこちら
また、APIを有料で公開することで、より広い人たちに機能を使ってもらえるだけでなく、Nabla社が営業などの能動的なアクションをしなくても、収益を上げることが可能です。
まとめ
Nablaは会話情報からテキストを書き起こし、医者にとって必要な情報を自動で構造化してメモに起こすことで、医者の書類入力にかかる時間を大幅に削減していることがわかりました。
大規模言語モデルの登場により、音声からテキスト、テキストから画像など、マルチモーダルに情報を操作することが容易になっています。
医療業界に限らず、会話情報からテキストを抽出・整形し、書類に自動入力するという大規模言語モデルのユースケースは、今後主流になっていくかもしれません。
弊社でも音声入力から自然言語に変換を行い、生成AIのタスクに落とし込む取り組みを実施しています。
特に弊社は、大規模言語モデルに専門知識を埋め込む「RAG」という技術や、非構造・半構造のデータを構造化・正規化することに強みを持つ会社です。それらの技術を活かしたプロジェクト組成やMVP開発のご支援も行っておりますし、「そもそもどのような業務に生成AIを活用できそうか」という上流工程から伴走することも可能です。
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