【投資調査 × 生成AI】投資調査を効率化する財務アナリスト専用の生成AI Copilot:Finpilot
- ファイナンス
- 生成AI
- LLM
企業分析・投資調査をサポートする、財務アナリスト専用の生成AI Copilot「Finpilot」を徹底解説!

金融業界は、財務情報などの大量のドキュメントやその中の数字を扱うことから、大規模言語モデルが処理するタスクとして相性が良いと言えます。
その一方で、財務3表や米国における10-K・10-Qに記載される財務データは、構造が正規化されておらず、非構造データであることが一般的です。10-Kや10-Qとは、米国の上場企業がSEC(Securities and Exchange Commission:米証券取引委員会)に提出する年次業績報告書と四半期業績報告書のことです。
また、チューニングされていない大規模言語モデルは、金融業界の専門用語を認識・理解できないケースがあります。
今回は、財務アナリストが投資調査を行うための生成AI Copilot 「Finpilot」を紹介します。これは大規模言語モデルを金融業界に特化してファインチューニングし、複数企業の財務情報を収集して比較・分析・レポーティングできるように設計されています。
※ファインチューニング・・・モデルを大量のデータセットで追加学習させ、特定の知識に詳しいモデルを作ること
金融業界における生成AI活用の課題と、財務アナリストの課題
金融業界で生成AIを活用する際にしばしば問題となるのは、業界特有のタスクを大規模言語モデルに実行させる過程で、専門用語を適切に認識・理解できない場合があることです。
ChatGPTに「MBOとは何か説明して」と質問した時に、大規模言語モデル自体がその知識を持っていなかった場合、エージェントという機能を活用してWeb上の情報を自動でリサーチ・参照し、結果を回答することは可能です。
しかし、特定のタスクを実行させるようなプロンプト(大規模言語モデルへの質問文)の中に専門用語が含まれていた場合、その専門用語を理解した上でタスク実行させることができないケースがあります。
また、ChatGPTのような公開されているモデルは一定期間に一度、学習している情報が更新される仕様になっています。つまり、常にモデルそのものが学習し続けている訳ではないため、最新情報を取り扱うことができないという課題があります。
金融業界において、最新の財務情報にアクセスできないことは、実務における生成AIの使用が難しくなるようなクリティカルな課題です。
以前別の記事で取り上げた「NeoGPT」という大規模言語モデルや、「GenerativeX」という国内企業においても、金融業界の専門知識を大量のデータセットでファインチューニングしていることから、金融業界で生成AIを活用するためには、特化型モデルを作成した上でアプリケーションを提供することが必須のように思います。
NeoGPTの記事はこちら
Generative Xの公式サイトはこちら
加えて財務アナリストは、特定企業への投資や融資の判断を行う際に、ニュース報道や新聞・SECへの提出書類・決算報告書・Webソースの情報・投資家向けのプレゼンテーションスライドなど、公開・非公開問わず複数の異なる情報を集約することでレポートを作成し、投資や融資の意思決定を行っています。
Finpilotによると、財務アナリストは情報を収集してレポートを作成する業務に、最大で全体の70%ほどの時間を費やしていると言います。
Finpilotの概要
Finpilotは、前節で取り上げた課題の解決に取り組んでいるFintechスタートアップです。
CEOのLakshay Chauhan氏は、シアトルのヘッジファンドであるEuclideanにて長年、機械学習エンジニアを務めた経歴を持っています。
Finpilot自体は、Euclideanを共同設立したJohn Alberg氏と2008年に共同設立された会社であり、10年以上の年月にわたり長期投資の意思決定に機械学習とAIを活用してきました。
そのような背景を持つFinpilotは2024年2月下旬、シードラウンドで400万ドル(約5億8000万円)を調達したことを発表しました。
同社は自身のサービスを一言で、「財務に関する質問ができる ChatGPT」と表現しており、調達した資金はその開発に充てられるとのことです。(参照元:https://www.geekwire.com/2024/finpilot-a-seattle-startup-using-generative-ai-to-help-financial-analysts-with-research-raises-4m/ )
資金調達の前段階で、すでにベータ版が一般公開されており、Google認証を行うことで誰でも使用することができます。
現在は財務アナリスト個人を対象とした、セルフサービスのビジネスモデルとなっていますが、エンタープライズ版も近日中に展開予定であると公言しています。
Finpilotの機能
Finpilotの機能は、大きく分けて5つあります。
財務に関する質問から回答を得る
Finpilotを使用すると、単にドキュメントの内容を引用するのではなく、データから得られるインサイトに基づいてグラフや図を含む回答を得ることが可能です。

(引用元:https://beta.finpilotai.com/chat/share?shareId=e10bf133-a91d-4abb-b98f-5f95bafe66b3)
例えば上記の画像では、「インスチールの粗利益率が低下した理由は?」という質問に対して、Finpilotは以下のような分析結果を提供しています:
・鋼材価格がトレンドとして低下したことと、自社の価格競争力が低下したこと
・販売価格と原材料コストのスプレッドが縮小したことによって、利益率が低下したこと
・出荷量が低下したことによる、単位製造コストの増加
また、右側のタブでは、回答に使用した表やグラフのソースが表示されています。

(引用元:https://beta.finpilotai.com/chat/share?shareId=a6b7ee84-a191-4d97-90e1-3a0593546338)
もう一つの画像では
「過去5年間のHALのセグメント収益は何ですか?年度とセグメントをヘッダーにした表で回答してください。」
という質問に対し、右側のタブにある複数のデータから表を作成して回答が生成されていることがわかります。
企業の比較
Finpilotの便利な機能の1つとして、企業間の比較を1つの質問で容易にできるという特徴があります。従来のAzure(Microsoftが提供するクラウド)上で提供されているGPT-4を用いて、異なるデータソースを参照しつつ1つの観点から比較を行うことは、難しいタスクでした。
比較を行うためには各企業の情報をそれぞれ回答してもらった後に、そのデータを新たな質問に渡すことで分析してもらう必要がありました。

(引用元:https://beta.finpilotai.com/chat/share?shareId=8a268252-ed3a-4e21-b76c-5a03a0e81b13 )
上の画像では、
「Snowflake、Cloudstrike、Datadog、Cloudflareの4企業について、第4四半期におけるサービスの純継続率を表形式で答えて」
という質問に対し、右側のタブにある複数ソースを参照しながら表で回答が返ってきています。
ドキュメントとのチャット
Finpilotはユーザーからの質問に対し、広く情報収集して回答するだけではなく、特定のドキュメントを選択することでそのドキュメントに記載されている内容についてQ&Aを行うことができます。

(引用:https://beta.finpilotai.com/chat/share?shareId=00553411-9442-4906-97a5-799fc8988fb7)
上記の画像は、Curtiss-Wright Corporationによる2023年第1四半期に提出された文書に対してQ&Aをしている画像です。
DEF 14AというのはSECに提出される書類であり、主に株主向けに取締役会のメンバーや役員の選出、報酬プログラム、企業ガバナンス、株主提案などの情報を提供するものです。
左の画面では、「Curtiss Wrightの報酬プログラムの異なるコンポーネントについて教えてください。年間のインセンティブについてKPIのウェイトはどのようになっていますか?」という質問がされています。
それに対する回答として、
「Curtiss Wrightの報酬プログラムには、基本給、年次インセンティブ報酬、長期インセンティブプログラムが含まれています。年次インセンティブ報酬は、複数のパフォーマンス指標に基づいており、2022年の主要パフォーマンス指標(KPI)のウェイトは以下の通りです:
・売上高に占める運転資本:30%
・営業利益:30%
・オーガニック売上高成長率:20%
・個人目標:20%
…. 」
と回答が返ってきており、参照したドキュメントの記述部分が、根拠としてハイライトされていることがわかります。
独自のドキュメントをアップロードする
投資調査や財務分析においては、会社の公式文書だけでなく、市場調査レポートや投資家向けプレゼンテーションといった公開されていない独自のドキュメントからの情報も重要です。
Finpilotでは、ユーザーはこのような非公式のドキュメントをアップロードし、分析に利用することができます。

(引用元:Finpilot ベータ版より)
データを Excel にエクスポートする
Finpilotを使用すると、ユーザーは生成された表をボタン一つで簡単にExcelにエクスポートすることができます。
これにより、従来は手動で行っていた値の入力や集計といった時間を要する作業が、質問を投げかけてエクスポートボタンをクリックするだけで完了します。
まとめ
Finpilotは大量のデータセットで大規模言語モデルをファインチューニングすることで、金融業界特有の知識をモデルに埋め込んでいます。また、企業の公開情報を自動で収集し独自のドキュメントをアップロードすることで、財務アナリストの投資調査や財務分析を効率化していることがわかりました。
モデルの追加学習にはファインチューニングという手法が使用されている一方で、独自のドキュメントをアップロードする部分には「RAG」という手法が採用されている可能性が高いです。
私たちは大規模言語モデルに専門知識を参照させる「RAG」という技術や、金融業でも多く扱われるような非構造・半構造のデータを構造化・正規化することに強みを持つ会社です。
それらの技術を活かしたプロジェクト組成やMVP開発のご支援も行っておりますし、「そもそもどのような業務に生成AIを活用できそうか」という上流工程から伴走することも可能です。「情報収集も兼ねて相談したい」というお客様も、お気軽にお問い合わせください。
「生成AIを活用したいが、どういう業務に向いているのかがわからない」
「生成AIに興味はあるが、キャッチアップをしている時間がない」
という方々に向けて、最新記事のアップ時にメールでお知らせさせていただいております。
今回の記事のような内容をタイムリーに知りたい場合は、 ぜひ下のフォームからAI Powered Business Lettersに登録いただければ幸いです。