【脱炭素 × 生成AI】クリーンエネルギーへの移行を加速させる生成AI Copilot:Aria
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クリーンエネルギーの調達をどの企業もできるようにサポートする生成AI Copilot:Aria を徹底解説!
近年、脱炭素化を目指す多くの企業は、クリーンな電力網を求めています。
しかし、クリーン電力を調達するためには専門知識・資金力・専門家が必要となりますが、それらのリソースをすべての会社が持っているとは限らず、一部の大手企業に偏っていると言われています。
その他の企業はクリーン電力の調達を試みたとしても、どの地域からどのクリーン電力を、どれくらい調達し、どのように運用していけばいいかという知見を有していない場合もあるため、なかなか調達に参入することが難しいかもしれません。
クリーン電力を調達するにはまず、企業の予算やCO2の削減目標数値から、どのようにクリーン電力を調達するかの戦略を練る必要があります。その後、複数の想定シナリオからシミュレーションを行い、どのシナリオであれば費用対効果が見合うかの判断を行います。さらに、価格変動時や規制変更時にも柔軟に対応できるよう、ポートフォリオの改変も視野に入れた構成しなければなりません。
今回は生成AIを活用して、上記のようなクリーン電力の調達から運用まで対応しているアメリカのサービス、「Aria」について紹介します。
アメリカのエネルギー市場の現状
アメリカのエネルギー市場がどのような仕組みになっているかの解説は、「Aria」を提供しているVerseという会社のCEOである、Seyed Madaeni氏がわかりやすく説明されていたので、こちらを引用しながら説明します。
Powering clean energy procurement
米国のエネルギー市場
アメリカでは1980年代から、航空・鉄道・通信業界などの自由化とともに電力自由化が始まりました。これは、規制緩和することで電気料金の引き下げや、資源配分の効率化を目的としたものです。
2000年にはカリフォルニア州にて、電力会社が十分な電気を供給できなかったことにより、停電が頻発し価格上昇が起こる事態が発生しました。(カリフォルニア電力危機)一方で、カリフォルニア州の事例から学んだテキサス州は、停電や価格変動を減らすために価格水準の調整制度を取り入れたことで、2002年〜11年の間で再生可能エネルギーの割合は2%から11%に上昇しています。
アメリカでは電力を自由化している州と非自由化の州が混在しており、現在は13の州が自由化を行っています。(引用:https://pps-net.org/glossary/13463 )
現在、米国の電力自由化がなされている売買市場には、6つの地域市場があり、ERCOT, MISO, PJM, SPP, CAISO, NYISOの独立システムオペレータ(ISO)によって電力が管理されています。
卸売市場 … 自家発電所などの発電事業所は、6つの独立系システムオペレータが運営する市場で、電力会社に電力を販売している
小売市場 … 電力会社は卸売市場で購入したエネルギーを、電力を使用する顧客に販売する
ただし、地元の電力会社からの送電網を通じて提供される電力よりも、クリーンで安価な電力を求めるエンドユーザーのために、ISOが運営する市場を回避して供給源から直接クリーン電力を購入するルートが存在します。
それはPPA(電力購入契約)と呼ばれる制度であり、企業などの団体は再生可能エネルギー開発業者と長期契約を結ぶことができます。
PPAは非常に長期の契約となっており、企業は電力を約5~25年間購入に同意することで、再生可能エネルギー開発業者からエネルギーシステムを設計・設置・運用してもらいます。
企業にとっては長期の投資になるため、投資対効果が見合うかの判断が難しいですが、PPA自体は双方にとって有益な制度になります。エネルギー開発業者は長期で収入を得られますし、エネルギーを購入した企業は通常の地域から請求される公共料金よりも安価に電力を獲得できるからです。
過去数年間、PPAの価格は上昇したにも関わらずクリーン電力の購入に対する企業の関心は高まり続けていることから、需要は拡大しています。しかし、どのようにクリーン電力を調達すれば投資対効果が得られるかを評価し、実際に取引を実行することには、多くのリソースを要します。
クリーン電力調達の課題
冒頭でも少し触れましたが、クリーン電力の調達における課題は、調達の知見がない企業がクリーン電力を調達しようとすると、その知見を得るために専門家に相談する必要があります。
全体の電力需要のうち、PPAに参加している企業は1%未満であり、その半分以上はAmazon・Meta・Microsoft・Alphabetのような大手テクノロジー企業によるものです。彼らはPPAを実施するために内製のチームを作ることで、知見を自社で保有しているため、PPAに容易に参入することができます。
そうでない企業にとっては、調達戦略やポートフォリオを策定する際、電力市場の専門家やコンサルタントに外注する必要があるため、多くの経費を要してしまいます。
Verseが開発するAriaは、大手テクノロジー企業のようなクリーン電力の調達をするための資本やノウハウを有さない企業にとっても、調達を容易にするための調達戦略からポートフォリオの策定、調達後の効果測定・運用までをワンストップで行うことを可能にする生成AIサービスです。
Ariaの機能
Ariaのサービスページ では、「クリーン電力への切り替えを容易にする」という簡潔な言葉で機能が表現されています。
具体的な機能については、
1.戦略を定義する
ユーザーの財務目標・目安となる投資回収期間・排出削減目標をヒアリングすることで、最適なクリーンエネルギー戦略を特定する
2.ポートフォリオをデザインする
目標を達成するために最適なクリーンエネルギーを特定・調達・管理し、将来性のあるクリーンエネルギーポートフォリオを提供する
3.効果について報告する
ポートフォリオの発電事業所が予定通りにパフォーマンスを残しているか監視し、財務レポートと排出削減レポートを作成する
の3つが紹介されています。
(引用:https://verse.inc/ )
より詳細な使い方については、こちらの社内ブログに掲載されている「Heirloom」という企業の事例がわかりやすいです。
Heirloom社によるAriaの使用事例
Heirloomは、直接空気回収技術(DAC:Direct Air Capture)二酸化炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)技術に強みを持っており、石灰石を使って大気中から直接CO2を除去することができる会社です。
彼らは直接空気回収を行うための施設を、100%再生可能エネルギーから得られる電力で稼働させています。そのためクリーンエネルギーの調達は、重要な決定事項でした。
どういったポートフォリオであれば、最も大量に、かつリーズナブルにクリーン電力が調達できるのかを評価するため、Ariaが使用されました。
(引用:https://verse.inc/wp-content/uploads/2024/01/Heirloom-Portfolio-Planning-Case-Study_FINAL.pdf )
上記の画像は、Heirloomがクリーン電力を調達する上で考慮しなければならない自社の条件です。
調達戦略を考える上では必須であり、ここではコスト・調達場所・排出削減の目標・エネルギー消費量についてまとめられています。
調達場所(Location)で触れられている「grid(グリッド)」というのは、電力網のことであり、Heirloomは自社が属する地域の電力網からのみ調達する予定かどうかがヒアリングされています。
これらの調達条件を入力すると、調達シナリオの候補がいくつか出力されます。
(引用:https://verse.inc/wp-content/uploads/2024/01/Heirloom-Portfolio-Planning-Case-Study_FINAL.pdf )
上記の画像ではKey Inputsとしていくつかのパラメータを設定することで、9つのシナリオが作成されています。
詳細の説明は割愛しますが、例えばシナリオ3の「100% RE by grid」というシナリオであれば、「Heirloomのエネルギー消費のうち、100%分の Renewable Energy(再生可能エネルギー)を自社が属する地域の電力網から調達する」という意味になります。
つまり、もしHeirloomの施設運営がテキサス州(ERCOT電力網)に基づいていて、1年間に10万MWhのエネルギーを消費するならば、同じ年にERCOT内にある電力から10万MWh分のクリーン電力を調達する、ということです。
unconstrainedというのは、地域に縛られないため、どこの地域からクリーン電力を調達しても良い、ということを指します。また、CFEは Carbon Free Energy(無炭素エネルギー)を意味しています。
(引用:https://verse.inc/wp-content/uploads/2024/01/Heirloom-Portfolio-Planning-Case-Study_FINAL.pdf )
上の図は、9つのシナリオのうち4つをシミュレーションしたものです。
それぞれのシナリオに対して、グリーンプレミアム(追加で調達した電力のコスト)や全体のコスト、グリーンプレミアムの割合、再生可能エネルギーの割合、無炭素エネルギーの割合などが、表としてまとめられています。
このスライドはAriaが自動的に作成したものであり、下記画像のエネルギーポートフォリオにおいても同様です。
(引用:https://verse.inc/wp-content/uploads/2024/01/Heirloom-Portfolio-Planning-Case-Study_FINAL.pdf )
上記の画像は、Heirloom社が目標を達成するために最適なクリーン電力構成を、各シナリオごとに算出したものです。
例えば、上から2番目のグリッド(調達する地域)の制約がある場合は、SPPの風力・ERCOTの風力・MISOの太陽光からクリーン電力を調達すれば良いことがわかります。
まとめ
Verseが提供するAriaは、生成AIを活用して複雑なクリーン電力の規制やルール、調達方式を学習させることで、顧客の要望に合わせてクリーン電力の調達戦略やポートフォリオを作成していることがわかりました。
弊社でも生成AIを用いて特定のテーマに特化したルールを学習させ、予測分析を行うプロジェクトを実施しております。
また、私たちは大規模言語モデルに専門知識を埋め込む「RAG」という技術や、非構造・半構造のデータを構造化・正規化することに強みを持つ会社です。
それらの技術を活かしたプロジェクト組成やMVP開発のご支援も行っておりますし、「そもそもどのような業務に生成AIを活用できそうか」という上流工程から伴走することも可能です。「情報収集も兼ねて相談したい」というお客様も、お気軽にお問い合わせください。
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